第9話 40代からの将来の夢(後)

「楽しみなこと、ひとつ」

第9話 40代からの将来の夢(後)

15年後というと、友恵は60歳だった。このまま勤め続けていると定年になる年だ。これから何があるかわからないけれども、仕事はできるだけ辞めないし、スペイン語教室はずっとやれるといいなと思っている。自分自身も勉強になるし、子供と接するのはおもしろいので仕事を続ける毎日の良い気分転換にもなっている。自分にとってのそういう場が、真智子にとっての息抜きになったり、4歳のマルタが人に何かを教えることの練習の場になったりしているのはうれしいことだった。

真智子から15年後の話をされるまでは、スペイン語教室の具体的な15年後のことについては考えたことはなかったけれども、すぐにはっきりしたのは、いつか真智子やマルタにお小遣い程度の収入があればいいな、ということだった。しかし、教室代わりの会議室の使用料はこの数年で値上がりしたみたいだし先々も据え置きとは限らない。生徒の人数が今のままにしろ増えるにしろ減少するにしろ、教室の維持には少しだけ余裕が欲しいな、と友恵は思った。

たとえば自分がこの先1年か2年でいいから教室の使用料を全額出せて、そのぶん入ってくる月謝を真智子たちに回せれば少し違うのかも。ただ、今の段階で現金をポンと出せるほどの余裕があるわけでもないし、自分自身や夫や娘にもこれから何かあるかわからないから、もうちょっと積み立ての掛け金を増やそうかなあ。

娘もそのうち進学の費用が必要になってくるので、趣味のことばかりも考えていられないのだが、日曜に教室をやることによって仕事を頑張れている側面もあると友恵は考えていた。自分自身の楽しみのために始めたことにいろいろな人が関わってきて、そのことで頭を悩ませるのも幸せの一つだと思う。

悩みといえば、ピリさんにつられて買ったじゃがいもだけど、どう料理しよう、と考えながら友恵は帰り道を急いだ。

Check「15年」

2024年1月以降のNISAは、生涯の非課税限度額が最大1,800万円。つみたて投資枠で毎年の限度額120万円積み立てると15年でちょうど最大になります。非課税期間は無期限ですので長期的な資産形成を目指しましょう。

津村 記久子(つむら きくこ)
1978年大阪府生まれ。2005年デビュー。著書に「この世にたやすい仕事はない」(新潮文庫)、「ディス・イズ・ザ・デイ」(朝日新聞出版社)、「やりたいことは二度寝だけ」(講談社文庫)など多数

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