コラムVol.22 医療費控除とセルフメディケーション税制

2023年12月12日
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奥野 美代子 (おくの みよこ)
CFP®(ファイナンシャルプランナー)、中小企業診断士、MBA。
デンマークのオーディオブランドで富裕層向けのマーケティング&PRに27年間携わった後、中小企業診断士/FPの資格を取得し、経営コンサルタントとして独立。
日本FP協会 平成24年「暮らしとお金の相談室」相談員、平成26年広報センター電話相談員などを歴任。30代から始めたライフプランに基づくマネープラン、2回のマンション購入と不動産賃貸、リストラ後の独立等、自らの経験に基づき、相談者の立場に立って、ライフプラン、起業、セカンドライフプランなどのアドバイスを行う。経営コンサルタントとして、クリニックや中小企業のマーケティングサポートや経営セミナーなどの講師も務める。

誰でも市販薬で節税できる!

2017年1月に新設された「セルフメディケーション税制」を利用したことはありますか?

医療費で減税される制度としては、1年間の医療費合計が10万円を超えると適用される「医療費控除」があります。

「セルフメディケーション税制」では、ドラッグストアなどで購入した指定の医薬品の薬代の購入額が1万2000円を超えると適用されます。従来の医療費控除より手軽で誰でも利用できるようになりました。

しかし、これまで確定申告や医療費控除の経験のない方にはハードルが高いかもしれません。従来の医療費控除と新しい制度についてまとめてみました。

そもそも医療費控除って?

会社員はあらかじめ所得税を天引きされて給与を受け取りますが、給与すべてが収入として所得税の対象になるわけでなく、社会保険料や生命保険料の一部は所得税がかからない経費として収入から差し引く(控除)ことができます。年末調整では、生命保険料や扶養状況を証明する書類を出して、1年間の所得の精算をします。これを元に翌年の住民税も計算されます。

「医療費控除」は、1年間(1月から12月)の医療費の自己負担額(生計同一家族含む)が10万円を超えた場合、超えた金額を「控除」して、所得税を払い戻し(還付)できる制度です。これは、年末調整では精算できないため、自分で確定申告しなければなりません。

医療費控除に含めることができるのは、下記の費用です。

  • 治療費(通院費、保険外の部屋代や食事代、義歯・義足購入費)
  • 治療として行う柔道整復師・マッサージ費用
  • 分娩費など
  • 風邪薬や花粉症などの市販の薬代
  • 介護保険の自己負担額

視力回復レーザー手術(レーシック)や不正咬合の歯列矯正、重大な疾病が発見された場合の人間ドックや健診も対象になります。美容整形や脱毛処理、審美歯科治療などは対象外です。

支払った医療費のうち、生命保険や社会保険で補填された額を差し引いた自己負担額が10万円を超えた場合に200万円を上限として医療費控除を受けることができます。

誰でも市販薬で節税できる「セルフメディケーション税制」とは

「セルフメディケーション税制」は、2017年1月1日に制定された制度で、日頃から健康増進や予防の取り組みをしている人が1万2000円以上の対象医薬品を購入した場合に8万8000円を上限として利用できます。2017年から5年間の制度でしたが、その後2022年1月から5年間延長され、対象となる薬も追加となっています。

「セルフメディケーション」という言葉はあまり聞いたことがないかもしれません。世界保険機構(WHO)で、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な体の不調は自分で手当てすること」と定義されています。国民が自発的に健康管理や病気予防して、適正な管理のもと、医療用医薬品からの代替を進め、医療費の適正化を図ることを目的に設けられた制度です。

つまり、ちょっとした不調だったら、病院で処方されている薬が薬局でも買えるので、病院へ行かずに薬局の薬で治して、医療費削減に協力くださいという制度です。

対象となる医薬品は、一般的なかぜ薬や湿布薬も含まれるので、後述の「対象となる医薬品は」をチェックしてください。

医療費控除とセルフメディケーション制度について、下限額と控除上限額を下記にまとめました。

医療費控除
医療費控除
セルフメディケーション制度
セルフメディケーション制度

対象となる医薬品は?

対象の医薬品については、当初は医療用から転用(スイッチ)された医薬品として厚生労働省が指定した医薬品「スイッチOTC医薬品」1,671品目に限られていましたが、2022年以降は「スイッチOTC医薬品」以外も認められるようになりました。厚生労働省のウエブサイトに掲載されており、2022年時点での指定は、「スイッチOTC医薬品」2,747品目、非「スイッチOTC医薬品」4,094品目の合計6,821品目と大幅に拡大されました。

非「スイッチOTC医薬品」も対象になり、かぜ薬・胃腸薬、鼻炎用内服薬、水虫、肩こり・腰痛の貼付薬など、日常よく利用される薬代の多くも対象になっているので、常備薬をよく購入される方はぜひ対象品かどうかチェックしてみましょう。

ご参考:厚生労働省「セルフメディケーション税制の見直しについて」P4 令和3年2月3日

「セルフメディケーション税制」対象品目一覧 厚生労働省

対象薬には、パッケージに「セルフメディケーション税控除対象」の共通識別マークが入れられています。また、レシートにも対象商品には、「セルフメディケーション税制対象商品」と記されています。

対象医薬品識別マーク(出典:国税庁HP確定申告特集)
対象医薬品識別マーク(出典:国税庁HP確定申告特集)

健康診断・予防接種を受けていることが条件

この税制を利用するには、申告する本人が、下記のいずれかの「健康の保持増進および疾病の予防への取組として一定の取組」をしていることが必要条件となります。

  • 健康診査や人間ドック(健保組合や市町村国保が実施)
  • 特定健康診査(メタボ検診)
  • 定期健康診断(勤務先で実施)
  • がん検診(市町村が実施)
  • 予防接種(インフルエンザ)

どのくらい、節税できる?

セルフメディケーション税制でどのくらい節税できるのでしょうか?課税所得と医薬品購入額によって異なりますので、一例を示します。

(課税所得400万円)対象医薬品を年間5万円購入した場合
(課税所得400万円)対象医薬品を年間5万円購入した場合
(課税所得400万円)減税額
(課税所得400万円)減税額

この例では、所得税と住民税合わせて、1万1400円が還付されます。住民税率は、一律10%ですが、所得税率は課税所得額が高くなるにつれて税率が上がる累進課税です。生計を一にする親族の中で、一番課税所得の高い人が申告するとよいでしょう。

「セルフメディケーション税制」は、従来の医療費控除の特例なので、利用する際は従来の医療費控除か新制度のどちらかを選ばなければなりません。

手続き

確定申告に必要な書類は下記のとおりです。

1) 医療費控除の明細書(医療費控除の場合)
2) セルフメディケーション税制明細書(セルフメディケーション税制の場合)

1)、2)の書式は、上記国税庁のサイトからダウンロードできます。それぞれ、確定申告の際、医療費や医薬品の領収書の添付は不要ですが、明細書の記入内容の確認のため、税務署から領収書の提示、または提出を求められる場合がありますので、5年間自宅で保管する必要があります。

3) 健康推進の取り組みをした証明書(セルフメディケーション税制の場合)

・「領収書」または「結果通知表」

検診の結果通知表は写しを提出しますが、それ以外の領収書等の証明書は原本が必要です(氏名、取り組みを行った年、事業者・保険者等が記載されているもの)。

セルフメディケーション税制は2026年12月31日までの運用となります。これまで医療費は10万円を超えないからと医療費控除を行えなかった方でも、対象の医薬品の範囲が広がり、控除の下限額が1万2000円になったことで適用できることがあります。家族の医薬品・医療費の領収書を保存し、まとめると意外と高額になるかもしれません。これを機会に家族の健康増進・病気予防を図りながら、節税に取り組むことをお勧めします。

ご留意事項

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