コラムVol.8 NISAの注意点を踏まえた投資商品の選び方

2024年1月12日
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目黒 政明 (めぐろ まさあき)
1983年、慶応義塾大学法学部卒業後、大和証券に入社。1987年、独立系FP会社に転職し、FPとしての活動を始める。1992年、MMIライフ&マネープランニングを設立。2002年、個人を対象に幅広くFPサービスを提供する生活設計塾クルーの取締役に就任。2010年、生活設計塾クルー代表取締役。資産運用アドバイスを専門とし、運用相談、新聞・雑誌等での原稿執筆、マネーセミナーの講師などを務めている。

NISAの主な注意点

2023年までの旧NISAとくらべると、2024年からの新NISAは利便性が大幅にアップし、使い勝手は格段に良くなりました。しかし、次のような注意点があります。

1.年間投資枠と非課税保有限度額が設定されている
NISAの「成長投資枠」で年間240万円、「つみたて投資枠」で年間120万円まで投資できます。成長投資枠とつみたて投資枠は併用でき、併用した場合、年間360万円までの投資が可能です。ただし、非課税保有限度額(生涯投資枠)は最大1,800万円で、うち成長投資枠は最大1,200万円までです。成長投資枠は利用しなくてもよく、つみたて投資枠だけで最大1,800万円までの投資も可能です。

2.売却した部分の非課税枠の再利用は翌年から可能になる
NISAで保有していた商品を売却すると、その商品に投資した元本分の非課税枠が翌年に復活し、再利用できます。売却と同時、あるいは即座に非課税枠が復活するわけではなく、翌年に復活します。翌年以降は年間投資枠の範囲内で非課税枠の再利用が可能となります。

3.分配金再投資コースの分配金で株式投資信託を買い付けると、非課税枠を利用したことになる
株式投資信託を分配金再投資コース(自動継続投資コース、累積投資コースともいいます)で購入した場合、決算時の分配金で同じ株式投資信託を自動的に買い付けることになります。NISA口座内で分配金が再投資されると、分配金でその株式投資信託を新規で購入したと見なされるため、分配金の金額の分だけNISAの非課税枠を利用したことになります。このとき、普通分配金と元本払戻金(特別分配金)で取扱いに差はありません。

4.損失は税務上ないものとされる
NISA口座内における譲渡損失(値下がり損)は、所得税および住民税の計算上ないものとされます。したがって、NISA口座内の譲渡損失を、課税口座(特定口座、一般口座)で受け取った分配金や配当金、譲渡益(値上がり益)と損益通算することはできません。損失の繰越控除もできません。

成長投資枠で購入できる商品

成長投資枠の投資対象商品は、2023年までの一般NISAを基本的に引き継いでいます。具体的には、上場株式(国内株式)、外国上場株式(外国株式)、公募株式投資信託、上場投資信託(ETF)、上場不動産投資信託(REIT)など、幅広い投資商品が非課税扱いで購入できます。

ただし、資産形成に適さない商品は除外されています。具体的には、上場株式については、上場廃止のおそれがある監理銘柄と、上場廃止が決まった整理銘柄は対象外です。株式投資信託については、(1)信託期間が20年未満、(2)毎月分配型、(3)高レバレッジ型、は対象外となっています。

つみたて投資枠で購入できる商品

つみたて投資枠の投資対象商品は、2023年までのつみたてNISAと同じで、所定の要件を満たす公募株式投資信託と上場投資信託(ETF)で、かつ金融庁に届出されているものに限定されています。成長投資枠とくらべれば、購入できる商品はかなり絞り込まれています。

公募株式投資信託とETFの共通の要件として、(1)信託期間が無期限または20年以上であること、(2)毎月分配型でないこと、(3)ヘッジ目的の場合等を除きデリバティブ取引による運用を行わないこと(レバレッジ取引を行わないこと)があります。
公募株式投資信託は、主に株式で運用される株式型か、株式・公社債・REIT(不動産投資信託)でバランス運用される資産複合型である必要があります(株式と公社債、株式とREITの組み合わせも可)。運用対象に株式が必ず入っている必要があるため、公社債やREITだけで運用されるタイプなどは対象になりません。このため、つみたて投資枠では、株式型ファンドと外国債券型ファンドを自分で組み合わせて運用するといったことはできません(成長投資枠では、こうした投資も可能です)。
また、購入時手数料と解約手数料(信託財産留保額を除く)が無料である必要があり、投資信託を保有している間に継続的にかかり続ける運用管理費用(信託報酬)も一定率以下の低コストの商品に限定されています。
なお、つみたて投資枠で購入できる商品は、成長投資枠で購入することもできます。

NISAの商品選びのポイント

1.中長期投資に適した投資信託がおすすめ
NISAでは、短期的な値上がり益を狙った投資も可能ですが、短期間で値上がり益が期待できるものは、値動きが大きな商品でなければならないので、逆に見通しを誤って大きな損失を被ることもあり得ます。このとき、NISA口座での譲渡損失(値下がり損)は課税口座との損益通算や損失の繰越控除はできません。また、短期売買でNISAの年間投資枠を使い切ってしまうと、次に魅力的な投資対象が現れても、その年はもうNISA口座で投資することはできません。

このように、NISAは短期間での売買を前提とした商品には適しておらず、中長期の保有で税制上のメリットを享受しやすい仕組みになっていると考えることができます。こうした点では、短期的な判断が必要な場合もある個別の上場株式への投資より、中長期の投資が前提の投資信託のほうが基本的にNISAに向いた商品設計になっているといえるでしょう。
なお、短期売買あるいは売買頻度が高い投資は、投資金額に制限がなく、損益通算や損失の繰越控除もできる特定口座で行うのが合理的です。

2.自身のリスク許容度に応じた商品選択を
運用の世界では、収益の振れ(簡単に言えば値動き)のことをリスクと考えます。リスク許容度とは、自分自身が運用上のリスクをどこまで受け入れることができるかという度合いを指します。
その際、株式のように高いリターンが期待できるものはリスクも高い(値動きが大きい)、債券のようにリスクが低い(値動きが小さい)ものは期待できるリターンも低いという「ハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターン」という関係が存在しています。

リスク許容度が高い人は、運用上のリスク=値動きを受け入れる度合いが高いので、積極的な運用が可能です。具体的には、株式の比率を高めにした運用でも問題はないでしょう。ただし、株式の比率を高くすると高いリターンが期待できますが、運用途中で大幅に値下がりすることもあり得るということを十分理解しておく必要があります。
一方、リスク許容度が低い人は、リスクを抑えた運用を心がける必要があります。具体的には、債券の比率を高めにして株式への投資割合を低くする、あるいは投資金額そのものを大きくしないということを意識したほうが良いでしょう。

3.「分配金あり」か「分配金なし」かの選択
投資信託への投資で、隔月あるいは3か月に1回といった頻度で定期的に分配金を受け取りたい場合は、成長投資枠で定期分配型ファンドを買い付けることになります(毎月分配型はNISAでは購入できません)。分配金を受け取る限り、NISAの非課税枠に問題は発生せず、分配金は全額非課税で受け取ることができます。

しかし、特に分配金を受け取る必要がない人が、NISA口座で定期分配型ファンドを買い付ける場合は注意が必要です。分配金を受け取る必要がない場合は、分配金は次の運用に回すことになりますが、NISA口座内で再投資を行うと、再投資した分配金の分だけ非課税枠を利用することになるので、その分の非課税枠を空けておく必要があります。

一方、運用収益を分配せず、収益部分をファンド内に留保して複利で運用していく投資信託もあります。この場合、運用収益は全て値上がり益という形で非課税で受け取ることができ、分配金の分だけNISAの非課税枠を空けておくといったことを考慮する必要はありません。
したがって、特に分配金を必要としない投資家の場合は、できるだけ分配金を支払わない投資信託のほうがNISAの非課税枠を効率的に利用できて有利ということになります。

4.リバランスの問題とバランス型ファンドという選択肢
中長期の運用でなるべく安定的なリターンを目指す場合は、分散投資が大事なポイントになります。このとき、投資信託を使えば、分散投資は手軽にできます。
ところが、個別の投資信託を組み合わせて分散投資をすると、購入後の価格変動によって、各投資信託への投資比率が当初とは変わってきます。そこで、定期的に各投資信託の比率をチェックして、比率が高くなりすぎたものは一部売却し、比率が低下したものを買い増して、バランスを調整する必要が出てきます。これを「リバランス」といいます。中長期の投資では、リバランスの実行も大事だといわれています。
2024年以降の新NISAでは、売却した部分の非課税枠を再利用できるようになりましたが(2023年までの旧NISAでは非課税枠の再利用はできませんでした)、再利用できるのは翌年以降になります。成長投資枠で240万円の限度額いっぱいまで各投資信託を購入していた場合は、少なくともその年はリバランスを行うことができません。

一方、1つの投資信託の中で、各資産への投資比率をリバランスしてくれるのが資産配分固定型のバランス型ファンド(資産分散型ファンド)です。この場合、NISAの非課税枠は影響を受けず、投資家もリバランス実行の手間が省けます。

中長期の投資で安定的なリターンを目指したい、NISAの非課税枠を効率的に活用したいといった場合は、個別ファンドの組み合わせ投資よりも、バランス型ファンドのほうが適しているといえる側面があります。ただし、バランス型ファンドにもいろいろな商品があるので、実際の資産配分や運用方針の違い等によって選ぶべき商品は変わってきます。

また、分散投資やリバランスは運用資産全体で考えることが大事なので、運用資金が豊富な投資家の場合は、NISA口座内だけのバランスを考えてもあまり意味がありません。こうした投資家の場合は、分散投資は課税口座での投資も含めて考えるべきで、非課税というメリットがあるNISA口座では高いリターンが期待できる商品を中心に投資するという選択肢もあります。逆に、運用資金が小さく、NISA口座の非課税枠に余裕がある投資家の場合は、自分にとって魅力的な個々の投資信託を組み合わせて投資し、分散投資とリバランスを自分で実行するという選択肢もあります。

以上のように、NISA口座で投資する商品の選択にあたっては、運用におけるリスク許容度、分配金を受け取るか否か、リバランス実行の考え方、運用資金の規模等を考慮し、ご自身の資産形成に合った商品選びをすることが大切です。

NISAの主な注意点
非課税対象

上場株式、公募株式投資信託等の配当金・分配金、譲渡益

新規で購入した商品に限られる(課税口座からの移管はできない)

公社債や公社債投資信託などは対象外

年間投資枠と
非課税保有限度額

年間投資枠は成長投資枠が240万円、つみたて投資枠が120万円

成長投資枠とつみたて投資枠は併用でき、併用した場合は年間360万円までの投資が可能

非課税保有限度額(生涯投資枠)は、1,800万円で、うち成長投資枠は最大1,200万円まで

その年の12月末までに使わなかった未使用枠は翌年以降に繰越しできない

分配金再投資コースの分配金で株式投資信託を買い付けると、その分だけ非課税枠を利用したことになる

商品の売却

売却はいつでも自由

売却部分の非課税枠は翌年に復活する

損失の扱い

譲渡損失はなかったものとされる

課税口座との損益通算や損失の繰越控除はできない

ご留意事項

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