IAS19号(国際会計基準第19号)

  1. IAS19号とは
  2. IAS19号のポイント

1.IAS19号とは

IAS19号(国際会計基準第19号)は、従業員給付の会計処理を定めたものである。日本では年金の会計と解されているが、実際には短期従業員給付と退職後給付、その他の長期従業員給付の会計処理をまとめたものである。年金会計は退職後給付に含まれるが、退職後給付は年金だけでなく医療給付なども含まれる。ちなみに、短期従業員給付は給与・賞与の他、有給休暇、その他の長期従業員給付は長期勤務休暇(永年勤続者に対しての休暇制度)などである。

2.IAS19号のポイント

IAS19号は1998年2月に公表され、2011年に大幅な改正が行われ現在に至っている。2011年の改正では、①資産・負債の変動の即時認識、②期待運用収益の廃止、③費用表示方法の見直し、が行われた。

<資産・負債の変動の即時認識>

従来は数理計算上の差異についてはコリドールールを伴った遅延認識及び即時認識の選択適用が認められていた。一方、過去勤務債務に関しては、受給権確定分は即時、受給権未確定分は受給権が確定するまでの期間で処理することとなっていた。改正により、数理計算上の差異の遅延認識の選択肢が排除され、過去勤務債務についても受給権の有無を問わず即時で処理することとされた。

<期待運用収益の廃止>

国際基準でも、従来は退職給付費用の構成要素(費用の減額要素)として年金資産の期待運用収益が計上されてきた。しかし、改正IAS19号では、期待運用収益が廃止された。事業主の恣意性が入る余地が大きいというのが廃止の理由である。ただ、年金資産を積立てていることの経済的な効果を考慮するため、期待運用収益の代わりに利息収益(年金資産×割引率)を計上する。

<退職給付費用の表示>

これまでの基準では、退職給付費用を構成する要素は、①勤務費用、②利息費用、③期待運用収益、④過去勤務費用の処理額、⑤数理計算上の差異の処理額その他、となっていた。新しい基準では、期待運用収益が廃止されることに伴い、確定給付債務のネットの利息相当分として純利息(利息費用−利息収益)が計上される。一方、期中の資産・負債の変動は期末時点で即時に反映されるため、過去勤務費用は受給権の有無に関わらず当期の費用としてすべて計上されるほか、これまで数理計算上の差異として扱われてきた資産・負債の時価変動についても「再測定」という項目で即時に認識されることになる。
ただ、従来、資産で発生する数理計算上の差異は、期待運用収益を織り込んだ期末の予想資産額と実際の時価資産額だったのに対し、新基準では、織り込まれる年金資産の収益は年金資産×割引率であるため、実際の時価資産額と年金資産×割引率を織り込んだ期末の予想値との差額が資産サイドで発生する再測定となる。
また、再測定は当期利益には反映せず、その他の包括利益に計上する。なお、日米の基準とは違い、発生した再測定をその後損益計算書を通じて当期利益へ計上し利益剰余金に組み替える処理(いわゆるリサイクリング)は行わない。ただし、その他の包括利益に計上した額を資本の部の中で利益剰余金に振り替えることは認められる。
勤務費用と純利息を純損益で認識することを求めているが、損益計算書のどこに表示するかは特に強制していなかった。しかし、2019年12月に公表された「全般的な表示及び開示」の公開草案では、勤務費用は営業損益として計上し、純利息は財務損益として計上することが提案されている。