確定給付企業年金制度の掛金

  1. 掛金の算定方法
  2. 計算基礎率
  3. 掛金の区分
  4. 掛金の負担
  5. 掛金額の再計算

確定給付企業年金の掛金については、確定給付企業年金法、同法施行令および同法施行規則に定められている。法令上、多様な掛金の拠出方法が認められており、企業の負担能力に応じた拠出を検討することができる。(「3. 掛金の区分 <補足掛金額> 」ご参照)

1.掛金の算定方法

掛金の算定方法は、1〜5の方法と、それらを組み合わせる方法が認められている。なお、掛金は、年1回以上、定期的に拠出する必要があるが、毎月拠出が義務付けられているわけではない。

  1. 定額
  2. 給与に一定の割合を乗ずる方法
  3. 給与に類するものに一定の割合を乗ずる方法
  4. 加入者の性別、年齢又は加入資格取得時年齢に応じて額を定める方法
  5. 給与又は給与に類するものに加入者の性別、年齢又は加入資格取得時年齢に応じて定めた割合を乗ずる方法

2.計算基礎率

掛金の額は、以下の計算基礎率に基づき計算される。(確定給付企業年金施行規則第43条)

  • 予定利率
    下限予定利率以上で、積立金の運用収益の長期予想に基づき合理的に定める。
  • 予定死亡率
    厚生労働大臣が定める基準死亡率とするのが一般的であるが、死亡の実績及び予測に基づき基準死亡率に一定の率を乗じた死亡率とすることができる。
  • 予定脱退率
    脱退の実績(原則として、過去3年以上の実績)及び予測に基づき定める。
  • 予定昇給率
    昇給の実績及び予測に基づき定める。合理的な方法により将来のベースアップを見込むことができる。
  • その他の基礎率
    計算上の予定新規加入年齢などがあり、それぞれの実績及び予測に基づき定める。

3.掛金の区分

確定給付企業年金制度の掛金の額は、標準掛金額、補足掛金額、その他の掛金の額に区分して規約に定める。補足掛金額には複数の種類があり、積立不足を解消するために様々な拠出方法が認められている。

<標準掛金額>
加入者の将来期間に係る給付に要する費用に充てるために拠出する掛金額。

<補足掛金額>
補足掛金額は、標準掛金のみでは将来にわたって財政の均衡を保つために必要な額に満たない場合に、標準掛金に追加して拠出する掛金額。補足掛金には、次のア〜エおよびリスク対応掛金がある。

  • ア.特別掛金額

    過去勤務債務の償却に充てる掛金額。規約に定めた期間での均等償却、弾力償却、定率償却、段階引上げ償却のいずれかの方法で計算する。

    均等償却 過去勤務債務の額を3年以上20年以内の予め規約で定めた期間で均等に償却する方法
    弾力償却 過去勤務債務を予定より早く償却するために予め一定の基準により掛金の上下限(*)を規約で定め、毎年予算作成時にその範囲内で任意の特別掛金率を定める方法
    定率償却 毎事業年度末の過去勤務債務の残高に、規約で定めた償却割合(15%以上50%以下)を乗じて償却する方法
    段階引上げ償却 過去勤務債務の額の償却開始後5年を経過するまでの間に、定期的かつ引上げ額が経年的に大きくならない方法で、段階的に特別掛金額を引き上げる方法

    (*)弾力償却時の上下限の算定方法
    まず、予定償却期間を定め、その期間で均等償却するよう算出した掛金額を下限とする。次に、予定償却期間に対応して規定された最短期間に基づき算出した掛金額を上限とする。(例:予定償却期間20年⇒最短期間10年、予定償却期間10年⇒最短期間6年)

    • 定率償却を除く上記の方法により特別掛金を算定する場合において、基準日以降における加入者の数又は加入者の給与の額の変動を見込んで算定することも可能
  • イ.次回の財政再計算までに発生する積立不足の予想額を償却するための掛金(特例掛金

    実際の財政運営において前提条件との乖離が予想される場合、その差を抑制するための掛金拠出が認められている。
    次回の財政再計算までに、運用利回りの低下、加入者数または給与の著しい変動を要因として発生することが予想される積立不足額については、それを償却するための掛金を上乗せして拠出することができる。当該掛金額は、次回再計算時までの期間で償却が完了するように計算される。

  • ウ.非継続基準の財政検証における積立不足を償却するための掛金(特例掛金

    確定給付企業年金制度では、毎年の決算において非継続基準による財政検証を行い、積立金の額が最低積立基準額を下回った場合に、当該下回る額を限度に追加掛金の拠出が必要となる(一定要件に該当すれば拠出を行わないことも可能)。

  • エ.一括拠出の対象となる掛金

    制度の終了・解散時、事業所脱退時には、法令で定める金額に不足する場合には、一括にて掛金拠出が求められる。

<リスク対応掛金>

  • 2017年1月1日に導入された新しい概念の掛金。拠出弾力化の基本的な考え方は、従来できなかった、将来の財政悪化に備えたリスクバッファーとしての事前積立を可能とすることである。具体的には、将来発生するリスクを「財政悪化リスク相当額(※)」として測定し、その範囲内で「リスク対応額」を規約に定め、新しい掛金である「リスク対応掛金」の拠出ができるようになった。
    ※「財政悪化リスク相当額」とは、将来において20年に1度程度発生する損失額のことであり、標準的な算定方法と特別算定方法の2種類の算定方法がある。標準的な算定方法では、資産区分ごとにあらかじめ厚生労働省によって定められたリスク係数を乗じて、財政悪化リスク相当額を算定する。標準的な算定方法による算出が困難な場合や標準的な算定方法に定めのないリスクを見込む場合には、信頼できるデータや手法に基づき、各制度の実情に合った方法(特別算定方法)で算定することができる。
    なお、特別算定方法には、厚生労働大臣の承認(特別算定承認)が必要な場合と不要な場合がある。

    従来の掛金拠出の仕組みは、景気の変動に応じて拠出額が変動しやすい構造にあるが、このリスク対応掛金の拠出により、将来の財政悪化時に積立金が毀損したとしても、リスク対応掛金がリスクバッファーとなり、給付現価を上回る財源の確保が可能となる。
    この新しいスキームでは、積立不足解消の為の追加掛金の事後拠出を回避することができ、安定的な財政運営が期待できることになる。

リスク対応掛金

<その他の掛金>

  • 事務費掛金

    確定給付企業年金制度の実施に要する事務費の負担のために事務費掛金を設定することができる。基金役職員の人件費・基金運営のための事務所経費、会議費等を賄うために使用される。
    基金型の場合、規約で定めることにより、加入者等の福利厚生に関する事業を行うことができる。これに充てるために事務費掛金を拠出する場合もある。

4.掛金の負担

確定給付企業年金では、事業主負担が原則で、同意を得た加入者に限り加入者負担が可能となり、加入者負担を強制することはできない。加入者の負担額については、掛金総額の2分の1までとされている。(確定給付企業年金施行令第35条)

5.掛金額の再計算

掛金額の見直しを行う財政再計算は、少なくとも5年ごとに行う。以下の1〜3の場合は、速やかに再計算を行わなければならない。

  1. 企業年金基金の合併・分割
  2. 規約型・基金型相互間の移行
  3. 次に該当する場合(掛金の額に係る規約の変更が不要の場合を除く)
    • ア.加入者数が著しく変動した場合
    • イ.加入資格又は給付設計を変更する場合
    • ウ.事業所の給付の支給に関する権利義務を移転・承継する場合
    • エ.過去勤務債務の額の予定償却期間の短縮・償却割合の増加を行う場合
    • オ.その他事情に著しい変動があった場合